クロスインデックス現地調査員による新興国12カ国レポート 第15弾 – タイ 2009年4月13日

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クロスインデックス現地調査員による新興国12カ国レポート
第15弾 – タイ 2009年4月13日

新興国12カ国レポートについて

本レポートは、海外調査や海外進出、海外出張などを検討しておられる企業様や、海外の政策や法律動向を見ておられる官公庁様、さらには学校法人様、現地事情にご関心のある個人の方に向けて執筆しております。

BRICsNEXT11VISTAなどのキーワードで取り上げられ、注目されている新興国のうち、インドネシア、中国、マレーシア、メキシコ、タイ、バングラデッシュ、南アフリカ、ロシア、ブラジル、ベトナム、韓国、フィリピンの12カ国を対象に、クロスインデックスの現地調査員の情報提供の下に配信してまいります。また、今後、アルゼンチン、UAE、エジプト、トルコ、インド、パキスタン、ナイジェリア、イランなどの国々を追加していく予定です。

掲載頻度としては、半月に一回、12カ国分のレポートの順次掲載を予定しております。国際ビジネスを展開される皆様のヒントになれば幸いです。

代表取締役社長 中村知滋

「アジアのデトロイト」目指すタイ自動車産業の光と影

タイ政府が国策として奨励する自動車産業

タイ王国Kingdom of Thailand)は、現在、世界の多くの自動車メーカーにとって重要な生産拠点となっている。それは、タイ政府が、タクシン元首相の時代から「アジアのデトロイト」を目指し、タイ自動車産業の育成を図ってきた恩恵に拠るところがある。

タイでは2000年8月から施行された投資奨励策において、外資系企業の法人税減免などの税制優遇処置を進めてきている。また2005年2月には「アジアのデトロイト計画」が打ち出され、自動車産業の生産能力や技術力を向上させることによって、2010年にはタイでの自動車の年間生産規模を180万台にすることが目標として掲げられている。特にタイ東 部のイースタンシーボード工業団地(Eastern Seaborad Industrial Estate)には多くの自動車関係企業が誘致されており、米国のビッグ3のフォード(Ford)やGM(General Motors)などの生産工場もある。また、2009年1月には日本の日産自動車が、主力車種である「マーチ」のすべての生産を2010年以降タイ国内で行うと発表している。

しかし、タイに は依然として政治的なリスクが残るのも事実だ。2008年11月から12月には、反政府団体「民主主義のための市民同盟(PAD)」によるスワンナプーム (Suvarnabhumi)空港占拠事件が勃発し、観光業が大きな打撃を受けたのは記憶に久しい。またまさに本日(2009年4月13日)、タイの首相が非常事態宣言を発令し、ASEAN会議が休止に追い込まれたこともあり、まだまだ政情不安は回復の兆しが見えていない状況である。

とはいえ、ベースのビジネス環境は自動車業界に追い風であるため、タイでの自動車生産は今後も増加すると思われる。その背景には、1)タイには自動車関係の周辺産業が、日系企業、現地企業を含め多く存在すること、2)日本とあまり変わらない生活が可能で、タイは日本人にとって住みやすい環境であること、3)タイ現地採用での就職を希望する日本人が多く、駐在員を削減し、コストを抑えることが可能であること、4)タイは「中庸」を重視する国であり、極端な政治的変動が起きることは考えにくいことが挙げられる。この観点から、タイを「政治の天才」と呼ぶタイ関係の学者もいる。スワンナプーム(Suvarnabhumi)空港占拠が、おおかた流血なしに終結した背景には、この様なタイの特性があると思われる。これらの観点からも、タイは、近年注目されているベトナムのような新興国よりも有利であると思われる。

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国策により増加するタイ国内の自動車数
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タイでは日本車がステータスシンボル

タイにおける並行輸入の日本車人気

タイにおける2007年の新車販売台数は約63万台となっており、同年のインドネシアの同約44万台を大きく上回っている。これは、タイが、自動車の生産拠点としてばかりではなく、販売市場としてもアジアにおける重要な地位を占めつつあることを示している。

ただ、タイの正規ディーラーが販売している自動車は日本国内と比較して車種が少なく、トヨタでは、「カムリ」、「カローラ」、「ウィッシュ」、ホンダでは「アコード」、「シビック」、「CR-V」などのメジャーな車種に限定されている。そのため、少ない選択肢に不満を持つタイ人消費者の間では、日本からの並行輸入車が人気となっている。タイへ並行輸入されている日本車で一番人気はトヨタの「アルファード(ヴェルファイア含む)」であり、タイでは400万バーツ程度(1,052万円程度、2009年2月時点で1タイバーツは約2.63円)で販売されている。これは、中級程度の大学を卒業したタイ人事務系の初任給(12,000バーツ)の28年分に相当する。

従来のタイでは、メルセデス・ベンツ(Mercedes-Benz)がタイ人富裕層のステータスシンボルとして地位を確立していたが、日本車の「アルファード」は現在、ベンツに勝るとも劣らないステータスシンボルとなりつつある。タイにおける並行輸入の「アルフォード」の人気の高さは、2008年11月からタイのトヨタ自動車が、正規ディーラーでの輸入販売を開始したことからも窺い知ることができる。さらに、日産の「GT-R」も多く並行輸入されており、900万バーツ(2,368万円程度)前後で販売されている。

タイの並行輸入店で日本車を購入した場合、修理に数ヶ月かかる場合もあるため、今後は正規ディーラーを通しての販売が増加すると考えられる。とはいえ、タイのトヨタ自動車が今回輸入を開始した車種は排気量が3,500ccの車種のみで、タイで最も人気が高く売れ筋商品である排気量2,400ccのタイプは含まれていない。さらには、タイ人富裕層に好まれるフルオプションの車種が選択できないなど、タイ人の消費者ニーズに応えきれていない面も否めない。このため、タイにおいては今後も、日本車の並行輸入と正規ディーラーを通しての購入とが共存していくと思われる。

タイへの日本車並行輸入に関わるスキャンダル

タイにおいて前述のように日本車の並行輸入が活況を呈する中、2008年11月に、自動車の並行輸入にまつわる詐欺事件が起こった。その渦中の人物が、SECオートセールス・アンド・サービス(SECC)の創業者ソムポン(Somporn)会長とその幹部だったのである。

SECCは、タイにおける並行輸入業者の最大手であり、なおかつタイ証券取引所に上場していた。同社は圧倒的な販売力を誇っていたことから、バンコクBangkok)都内では、同社のロゴステッカーを車体後部に貼った車が至る所で見られるほどだった。しかし、取引先の金融機関や顧客から多額の金をだまし取って国外逃亡した人物が、タイにおける自動車並行輸入で圧倒的シェアを誇ったSECCの会長だったとあって、タイ国内でも新聞等で大きく報道された。

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経営破綻したSECCのショールーム1

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経営破綻したSECCのショールーム2

タイ人被 害者の中には、政治家や元警察高官なども多数おり、その被害総額は40億バーツを超えるとみられる。またソムポン会長らは、個人的な借金に対する担保とし て、476台の車を含めた13億6,000万バーツもの同社資産を個人的に流用したのではないか、とも報道されている。今回の事件の数ヶ月前には、「同社 の幹部たちは、賭博に入れ込んでおり、金遣いが荒い。同社は危ないのではないか」との噂がささやかれ始めた矢先の事件発覚だった。

同社はすでに営業を停止しており、SECC社の10ヵ所以上のショールームは、すべてもぬけの殻となっている。タイ国内の他の並行輸入業者は、業界トップだった同社のシェアを奪いたいところだろうが、タイ人消費者はこの様なスキャンダルを見せつけられたことから、その多くは安心感のある正規ディーラーを通しての購入に流れるだろう。SECC社が抜けたことにより、タイ人顧客がどの様に動くかが注目される。

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