クロスインデックス現地調査員による新興国19カ国レポート 第21弾 – メキシコ 2009年7月23日

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クロスインデックス現地調査員による新興国19カ国レポート
第21弾 – メキシコ 2009年7月23日

新興国19カ国レポートについて

本レポートは、海外調査や海外進出、海外出張などを検討しておられる企業様や、海外の政策や法律動向を見ておられる官公庁様、さらには学校法人様、現地事情にご関心のある個人の方に向けて執筆しております。

BRICsNEXT11VISTAなどのキーワードで取り上げられ、注目されている新興国のうち、インドネシア、中国、マレーシア、メキシコ、タイ、バングラデッシュ、南アフリカ、ロシア、ブラジル、ベトナム、韓国、フィリピンの19カ国を対象に、クロスインデックスの現地調査員の情報提供の下に配信してまいります。また、今後、アルゼンチン、UAE、エジプト、トルコ、インド、パキスタン、ナイジェリア、イランなどの国々を追加していく予定です。

掲載頻度としては、半月に一回、19カ国分のレポートの順次掲載を予定しております。国際ビジネスを展開される皆様のヒントになれば幸いです。

代表取締役社長 中村知滋

メキシコで拡大するセキュリティ市場

メキシコ人に広がる治安悪化への不安

メキシコThe United Mexican States)の治安が以前にも増して悪化している。メキシコで現在多発している特徴的な犯罪は、「プチ誘拐」と呼ばれる短時間拘束型の誘拐や、「渋滞強盗(減速時に窓を割り金品を強奪)」や車両乗降時の間隙をつく強盗などである。

2008年8月にはトラスカラ (Tlaxcala)、プエブラ (Puebla)、オアハカOaxaca)などのメキシコの地方都市で、また、同年10月には、メキシコシティ(Mexico City)中心部で市民によるメキシコの治安強化を訴えるデモが行われ、メキシコの治安維持は今まさにメキシコ政府の重要課題のひとつとなっている。

メキシコは貧富の差が大きく、所得格差が近年さらに拡大していることがメキシコにおける犯罪増加の背景にあると言われている。また、メキシコの警察が犯罪に加担するケースも散見されるなど、メキシコの警察力は十分に機能しているとはいえないため、メキシコ国民の間では、「セキュリティ=自警」が当然となっている。

市民対象犯罪研究所(ICESI)によれば、誘拐はメキシコ国内で、年間約6,500件発生している。また、メキシコにおけるかつての誘拐は「組織化されたプロ」による「富裕層」をターゲットとする犯罪であったが、現在は犯罪が非常に一般化し、被害者も中間所得層へと広がっている。メキシコでは窃盗被害も人種、貧富に関係なく発生しており、被害が集中する時間帯も夜間とは限らない。

メキシコの日本大使館領事部の資料によれば、2008年上半期の在メキシコ邦人の被害(届出)は36件であり、そのうち、メキシコ駐在員、留学生などの短期メキシコ滞在者の被害は22件となっている。また、被害数22件のうちメキシコシティの邦人在住者の被害は5件と、同時期のメキシコシティの犯罪告発件数17万件と比べると減少傾向にあり、メキシコシティの在留邦人の高い防犯意識が窺われる。

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メキシコの格差社会を象徴する光景
左手前は高所得者層用住宅、
右奥は低所得者層の住宅街
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メキシコでは
コーヒーショップ前にも警備員(中央)

メキシコにおける個人向けセキュリティビジネスの動向

メキシコではオフィスのセキュリティ対策として、警備員の雇用や防犯カメラの設置、センサーによる手荷物検査や身分証明書のチェックなどが一般的である。また、メキシコのオフィスビルのエレベータには、乗る前に目的の階数を押さなくてはならない(中で操作できない)タイプのものや暗証番号が必要なものがある。メキシコの金融機関や一部の商店では、出納係が防弾ブース内におり、手が半分入る程度の小さな隙間を通して会計を行っている。

他方、メキシコにおける個人向けの防犯サービスは従来、メキシコ人富裕層を顧客とする警備業務やエスコートが大半であったが、前述のような被害者層の拡大に伴い、メキシコ人富 裕層に加えて中間所得者層をもターゲットにした個人向けセキュリティ商品の需要が拡大している。それを裏付ける例がある。ロイター通信(Reuters) によれば、2008年夏、セキュリティ製品販売会社のセガ社(Xega)が販売した誘拐防止マイクロチップの売り上げが、対前年度比で13%も拡大したそうだ。

このセキュリティ製品は、マイクロチップを腕に埋め込みサテライトで居場所を識別するというもので、埋め込み料金はUS$4,000、年間契約料は US$2,200と決して安くはない価格設定となっている。しかし、このような高額料金にも関わらず、セガ社の誘拐防止マイクロチップの販売実績は、個人 向けセキュリティ商品へのニーズの高さを背景に右肩上がりが続いている。つまり、今のメキシコでは、建物の警備やエスコートサービスのような「他人に守ってもらう」といった従来型のセキュリティ商品やサービスに加えて、「一人一人が自分の身を守る」といった発想の商品及びサービスのニーズが顕在化したのだ。

実際、セガ社に関連する地元エル・ペリオディコ・デ・メヒコ紙(El Periodico de Mexico)の記事でも「以前なら誘拐は、富裕層だけが心配する事件だったが、今のメキシコは時計ひとつ目当てに誘拐される時代になってしまった」との証言が掲載されている。メキシコの富裕層のみならず中間所得者層においても自分専用の防犯商品やサービスを望んでいると言える。

では現実はどうかと言えば、メキシコに 従来からある窃盗対策商品は中国製の番号合わせの鍵(約700円)や車のハンドルロック(約3,000円)など、ローテクな割には高額で種類も少ない。そ の一方で電気製品はステレン(Steren)社 の防犯グッズ(Seguridad)のように、動きを察知して音を出すモニターが280ペソ(約2,000円)と、購入し易い価格で販売されている。セガ 社の誘拐防止マイクロチップとまではいかずとも、メキシコでは最低でもこの程度の防犯グッズは欲しいものだ。(2009年1月現在1ペソ=約7円)

メキシコのセキュリティ業界

メキシコセキュリティ協会(CNSP)の会長であるトーレス氏は、ラテンアメリカセキュリティ協会(Foro de Seguridad)のHP上において、メキシコの個人向けセキュリティ市場は国民総生産の1%を占め、80億ドルに相当する市場であると述べている。一方でトーレス氏は、メキシコのセキュリティ業界は零細企業を中心とした1万社がひしめく業界であるため、テクノロジーへの投資や、顧客ニーズの把握、危険分析、さらには、防犯のコンサルタントまで可能なセキュリティの“プロ”は1割に満たない、という実態を指摘している。

メキシコのセキュリティ市場には、日本企業のパナソニック(オフィス用防犯システム、監視カメラ、モニター等)が既に進出しており、メキシコの法人向けに業務用監視IPカメラ(ネットワークで使用可)が10,000ペソ(約70,000円)台で販売されている。今後はメキシコ人個人向けセキュリティ製品の販売が期待される。

なお、2008年に続き2009年も4月21~23日にかけて、メキシコシティでセキュリティ見本市(Expo Seguridad Mexico)が開催された。同展示会のHP(英文)には、2009年の出品企業名や来場者に関する統計データ、出品者側のコメントなどが掲載されているほか、メキシコのセキュリティ商品に関するメルマガも購読できるようになっている。メキシコのセキュリティ市場を見聞したい方には、一度このメキシコセキュリティ見本市のHPをご覧になられることをお勧めしたい。

Expo Seguridad Mexico http://www.exposeguridadmexico.com/

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メキシコで販売されている
数字合わせ型の鍵(7.5×5cm、150g)

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